エド・ヴァン・デル・エルスケン 『セーヌ左岸の恋』
今回ご紹介するのは、おそらく世界で最も有名な写真家のひとりエド・ヴァン・デル・エルスケンの、出世作にして代表作である『セーヌ左岸の恋』です。
エルスケンを簡単に表現すると、何気ない日常をシャッターを押した一瞬にしてアートに変えてしまうマジシャンのような写真家と言えるのではないでしょうか。彼の撮った写真には人々の喜怒哀楽と同時に、その場の空気感や撮影者の心情まで映り込んでいるように思えます。
さてこの作品ですが、彼の若き日(25歳から29歳までの4年間)に住み着いたパリを題材にしています。写真はほぼ時系列に並べられ、そこに彼自身の手によるメモが挿入され、複数のストーリーが同時進行するような短編集の様に仕立てられています。恋に落ち、苦悩し、時には夜のカフェで騒ぎ、地下鉄のベンチで寝る。50年代のパリの若者の日常を、まるでフランス映画の様に叙情的な切り口で描かれています。
緊張感の高いストリートスナップも勿論魅力的ですが、被写体が彼の周辺の人物であることから、この作品に出てくる人々は常に自然な表情を見せてくれます。まるで見ている自分がエルスケンとなってその場に溶け込むような錯覚を覚えます。
彼の写真を観ていると、写真は機材やテクニックよりも表現と気持ちの部分の方が大切である事を思い知らされます。如何に自分と向き合い、内面から写真を表現するか?自分は何が撮りたくてどういう表現をしたいのか?非常に難しい部分ですが、常に意識していたいと思います。
- 作者: エド・ヴァン・デルエルスケン,Ed van der Elsken,大沢類
- 出版社/メーカー: エディシオントレヴィル
- 発売日: 2003/02
- メディア: 単行本
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※国内盤はプレミアがついたのかとんでもない値段になっていますが、輸入版は比較的安価に入手できます。スクリプトの英語もそれほど難しくないので、この際輸入盤を選択するのも良いと思いますよ。